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社長日記

2006年09月09日

夕焼け文庫1

 オンブックが発行していこうとしている書籍には二つの方向性がある。一つは、新しい才能・新しいテーマ・新しい発想などの著者を発掘して発行するというもの。もうひとつは、本来、世の中に残っていてよいはずの過去の書籍コンテンツを復活させるというもの。復活させる書籍については、単独の書籍で復刻させるよりも、個人全集の形で揃えていきたいと思っている。

「夕焼け文庫」は単なる復刻ではなくて、現代人の言葉に翻案したものである。「青空文庫」は参加型による著作権が切れた過去の名著をアーカイブしていこうとする、インターネットの誠実な動きとして評価出来る。しかし、明治の文章をそのままテキストにしても、現代の若い世代には意味が通じない。音楽の世界では、過去のヒット曲を現代の感覚にカバーするという方式が一般的にあるが、その発想を取り入れた。

「夕焼け文庫1」は、梶井基次郎の「檸檬」や森鴎外の「舞姫」を、翻案者の思いをこめてカバーした作品集である。こうした試みを多くの作家志望者が取り入れることにより、文豪たちの感性と技術を学べるし、現代の若い読者に古くさい文学を蘇生させて見せることが出来ると思う。

 僕は中学生の頃から神保町の古本屋が好きで良く通った。文学よりもむしろ古い実用書や雑学の本が目当てであった。近刊の「食道楽」(村井弦斎/亀田武嗣・訳)は、明治の頃のグルメ本である。神保町には、食関係の古書を専門に扱う古本屋があって、いつも飽きない。現代にも「通」を自称するグルメライターは多いが、明治・大正の「通」は本物であり、スケールも違う。村井弦斎は、自宅にフランス料理や中華料理の料理人を雇いいれていた。当時の報知新聞に連載して大好評だったコラムをまとめた本であり、もちろん大ベストセラーである。柴田書店で復刻されているが、現代の人にも読みやすいように現代語訳にした。

 明治・大正の実用書はオンブックの宝庫だと思っている。明治のある金持ちが世界旅行をした本があるのだが、あらかじめ情報を持っていない人が、はじめてナイヤガラの滝を見たりエッフェル塔を見たりした感動は半端なものではない。あるいは、関東大震災の時に相場で大儲けした人の本などもある。株式の本は、今も新しい本が続々と出ているが、基本は江戸時代からの米相場人のノウハウがベースであり、明治・大正の金儲け読本は、そうしたノウハウや諺を楽しむことが出来る。

 オンブックの既刊本である『お花の仇討〜大岡政談傑作選』(松井高志・著)は、江戸から明治にかけて盛んだった講談を現代語にしたものである。著者の松井さんは、婦人画報社で長く編集者を勤めながら、講談をライフワークとして講談のイベントなどもやっている。日本人は講談の世界で、多くの英雄やアウトローの伝記を語り継いできたのであり、その話芸を本にして成功したのが、明治・大正の講談社である。そして、これらの伝記をベースにして、司馬遼太郎をはじめとする歴史作家の本が存在するのだと思う。言ってみれば「夕焼け文庫」である。松井さんの大岡政談のベストセレクョンは、とてもよく出来た物語で、編集の大ベテランが訳した言葉も読みやすい。もっと多くの人に読んでもらいたいと思う。大岡政談は、事件の真相をあばく推理小説のルーツでもあろう。

 漠然と、本を出したいと思う人は多いと思う。それが自伝や思い出話だけではつまらないと思う。ぜひ、明治・大正の古本の世界を旅して、自分の経験を生かせる領域で現代語訳に挑戦して欲しいと思う。これは特に、定年間近と言われている団塊の世代の方にはお奨めしたい。

 古本の世界は実は大きな危機に見舞われている。かつては古書業界は書籍のメキキがいて、中身を検討して価値を見いだしていた。そのことによって、良書のみが世代を超えて残されていた。しかし「ブックオフ」というサービスが普及したことにより、内容が分からないフリーターのところに古本が持ち込まれ、汚れた古書は廃棄されてしまうのだ。古書が何世代にも渡って社会遺伝子として伝播されていくという文化が廃れようとしている。オンブックは古本の原本そのものを残すのではなく、著者の心や想いを次の世代に伝えて行きたい。(蛇足だが「オンブック」というのは「ブックオフ」に対抗したネーミングである)(笑)

「夕焼け文庫」のルールやサンプルについては「こちら」をご覧ください。

comment

» 松井高志
2006年09月12日 15:10

橘川さま:
オンブックの「大岡政談傑作選」、また、「三丁目図書館」でもお世話になっております、松井高志です。また何か新しいネタを掘り起こそうとたくらんでいます。偶然でしょうが、国書刊行会が、「水戸黄門漫遊記」「番町皿屋敷」など、講談本の復刻(現代語訳ではなく、速記本そのままの復刻)を始めました。総ルビで読みやすく、参考になります。明治・大正期の読物には、まだまだ忘れられた面白いものがありそうです。忘れられた作家などもかなりいるのでは? たとえば、初期のSFや少年少女小説の掘り起こしなどが面白そうですね。

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